言葉が出ないとき-父のこと19

そういえば、私の結婚式で家族が一人一人マイクを渡してコメントをいうシーンがありました。
母の番になったとき、母は何を言ってくれるのかなと待っていたら母は何も言わずマイクを次の人に回してしまいました。せっかくの娘の晴れの舞台なのに言葉ひとつくらいくれてもいいのに、と思った出来事。

ずっとひっかかっていました。あの時なぜ一言言ってくれなかったのかなって。
後に母の友達と母とでお茶する機会があったときに、母の友だちから「あなたが結婚してしまうと泣いて泣いて大変だったのよ」と聞き、寂しくて悲しくて、言葉が出なかった、言葉を出すと泣いてしまうと思ったのだなぁと理解することができました。


実家の犬。大きくなったなぁ・・・。

さて父の痛みは次第に増して来ているようで、現在はモルヒネを使って痛みを感じないようにして食事をしているようです。
同じ癌なのに、治療をする前とした後で痛みの種類がこんなに違うのは、癌という存在が、いろんな顔をもっているということですね。

治療をすればするほど、薬を飲めば飲むほど、病は形を変え耐性をつくる。
それが小さな風邪であっても癌でも同じなのですね。
人の体とは、本当に未知な領域なのだということがわかります。

昨年、父の癌について手術をするかしないか、そのメリットやデメリットの説明がありました。医師から「ご家族の方はどう思われますか」と聞かれた時に、私はひとつの答えを用意していました。

手術をしたくない父の気持ちが痛いほどわかっていたけれど、何より私が思う理由があったから、聞かれたときはこう答えようと決めていました。
でも、なぜだかそのとき、言葉が出てこなくて、ただただ首を傾むけるだけしか出来なくて、医師の「ご家族の方も手術は反対ですか?」に頷くだけでした。

なぜその時決めていた言葉が出なかったのか、それはその言葉をいってしまうと泣いてしまう自分がわかったからです。
その時は気持ちがいっぱいいっぱいで、父の病気や死に対して、まだ受け入れられない自分があったからではないかと思います。

そして母のこととこの出来事がつながったとき、人は本当に悲しいときは言葉が出ないのだなと思いました。
言ってしまうことで、もっと悲しみが深くなる、言ってしまうことでもっと苦しさが増してしまう。とか。そういうものを直観的に感じてしまうと「言わないほうがいい」という潜在的な意識が働くのでしょうね。

たぶん怒りの感情は言葉がすぐに出るから、悲しみの感情は底知れぬ人間の防御反応なんだと思いました。

私があの時、医師に伝えたかったことは、
「父と最後のお別れのとき、”ありがとうな”って言葉を聞きたいから」

手術で声を失ってしまっては”最後の言葉”を聞くことができないから、、、、です。


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